休んで、あせらず、これくらいできるかな
以前、「学校に行きづらい子のための演劇サークル」に参加して、現在はそのサークルのスタッフとして活動していらっしゃる当事者の方が、これまでの体験を語ってくださいました。
コミュニケーションの問題で傷ついた時は、
” 休んで、あせらず、これくらいできるかな “
こうして楽になっていくそうです。
- 休む。
- あせらず、これくらいできるかな、と思ってから少しだけ好きなことをして楽しむ。
- 好きなことの延長線上にある居場所に行ってみる。
- (演劇を選べば)明るく、声が大きくなり、失敗におじけづかなくなる。
おや?
演劇にできるのはほんの少しのことのようです。
どうやら、放課後るびは、自分に合った居場所の選択肢の一つに過ぎないようです。
1時間のお話をまとめたので、かなりの分量がありますが、座談会形式で、伺ったお話をご紹介します。
どうして演劇を選んだの?
Iさんは元不登校の経験者で、演劇サークルを通じて少しずつ楽になったと伺っています。演劇だけでなく、どのような経緯をたどったのか教えていただけますか?
はい。現在21歳で通信制大学で心理学を専攻しています。
以前は4年制大学に通っていましたが、体力的に辛くなり転入しました。
現在は小学生から高校生まで参加していた演劇サークルのスタッフとして活動しており、この場所に支えを感じています。
不登校になる前の経緯についてお聞かせください。小学6年生の時からですね。なぜ不登校になったのでしょうか?
コミュニケーションの問題が大きく、いじめや友人関係での孤立がありました。
私はしゃべれなくなったわけではなく、しゃべりすぎたことが友達の中で問題になり、行けなくなったタイプでした。
人間関係が問題になっている中で、演劇サークルに参加することには抵抗はありませんでしたか?
もともと人前で踊ることが好きだったので、そこまでハードルは感じませんでした。
ただし、内向的な子もいたと思います。
しかし、やろうという意志を持った子で、できなかった子を見たことはありません。
はじめのうちは何をしたらいいのかわからなくて黙っていることはあるけれど、それも舞台の上にいれば成立するというか…。
一度、本番で出て来れなくなっちゃった人がいて「あれ? 来ないなー?」って芝居をつないだことがあります。
黙る芝居って言うのがあって、何かを言おうとして、言えなくて、黙っているって言うのが恰好よかったりする。逆においしかったりすることがありますよね。
とはいえ、舞台の中で黙っていることが成立するといっても怖さはありませんでしたか?
そう言う役なんだと言い張れば通るし、まあ、なんとかなると思っていました。
演劇サークルを見つけたきっかけは?
母が見つけてきました。いくつか探してきてくれた、フリースクールなどの中のひとつでした。
他にもいろんな場所がある中で、なぜ演劇サークルを選んだのでしょうか?
当時は外出といっても親と散歩をするぐらいでフリースクールなどに行くほどではなく、演劇サークルは楽しいことができそうだと思ったから選びました。
他にも様々な場所がある中で、子供たちにどのような場所がおすすめですか?
フリースクールや習い事など、自分にとって楽しいことを続けられる場所が良いと思います。
そういった場所に行くことを決めるまでの間、私がやっていたのは公園を巡って動物の遊具を写真に撮って集めるというようなことです。
ゲームでもなんでも良いと思います。楽しいことを見つけられれば。気持ちがふさぎ込んでいるときに、楽しいことを見つけるって難しいと思うんですけど。
もともと好きなことがはじめやすくて、そう言う楽しめることの延長線上で頑張っていくのがいいと思います。
Iさんは、好きなことの延長線上に演劇があったんですね。それが演劇に繋がったとおっしゃっていますね。
はい、そうですね。
でも、いきなりどこかに行かなければならないと言われても、それはしんどいことですよね。
だから、まず、休む。しんどいのはもう、仕方がないんです。
嫌なことが何かしらあったわけで、それがしんどいのはもう、しんどいんです。
さすがに食事はして欲しいですけど。しんどいってことは疲れてるってことだから、休んだらいいです。逃げてもいいし。
別に、あせる必要はなくて。楽しいことをするのにも体力がいるじゃないですか。エネルギーが少なくなって、0になっている状態。
だから、これくらいできるかなと思ってから、やったらいいんです。0になってもマイナスにはならないので。
生きてるからね。
私は、本を読むのが好きだったんです。本を音読するのが好きだった。ハリーポッターとか。図書館に行っては、夜寝る前に音読していました。
そんな子だったので、その延長線上にある演劇を、私は選んだんだと思います。小6の頃の話なので、今思えば、ですけど。
他の人も同じように楽しいことを見つけていますか?
基本的に参加者同士はお互いの背景についてはあまり話さない傾向があります。
それを聞くとお互いつらいと言うこともある。あんまり関係が深くなりすぎるのもいいことではないと言うか。関係を維持するためには程々が良いと考えています。
演劇をすると、どうなるの?
では、実際に演劇をはじめてからのことを伺います。サークルがはじまってからはいかがでしたか?
楽しい。はじめからすごく楽しかった。
今、スタッフとして関わっていても楽しい。
いくつか、ポイントがあると思います。
ぜひ聞かせてください。
想像する楽しさってあるじゃないですか。このキャラはこういう人でこういうことをして、と考えること自体が私には楽しいんです。
それを楽しいと思う人は演劇を選ぶ感じがしますね。
演じること自体が楽しいんです。単純に体を動かすことが楽しい、声を出すことが楽しい、そしてキャラクターになりきることが楽しい。
それから演劇では自分が話すと、相手役は絶対に応えてくれます。日々のコミュニケーションではそうはいきません。自分が働きかけても返事がない、あるいは攻撃的な反応があることもあります。
でも演劇では相手が必ず何かしら返してくれるので、言葉のキャッチボールがしやすいと感じます。
演劇はルールや役割が明確なのでわかりやすいですね。
各自が特定の役割を持ち、役柄が決まっているので、現実のコミュニケーションが苦手な人でも取り組みやすいと思います。少なくとも私のような人間は非常に取り組みやすいです。
そういった演劇の経験が実生活の役に立ったことはありますか?
演劇で実生活の練習をしているわけではないので、役立つとは少し違うように思います。
演劇の経験が大きく影響したのは気分です。気分が明るくなったというのは絶対にある。
不登校の子供は気分が落ち込みがちで、どこにも行けなくて、普通じゃなくて。
「学校に行かなきゃいけないのにいけない」っていうところにいる。
それが演劇をすることで居場所ができて、気持ちが上がる。
もちろん、それは演劇じゃなくても何かを見つけられれば良いのだと思います。
あとは、以前より人前でしゃべる勇気が出るようになりました。単純に滑舌がよくなって口が大きく開くようになるから、言いたいことが伝わるようになります。
私が演劇部の顧問をしていたとき、生徒の変化について同じ印象を持ちました。
このサークルでは、お姫さまなど自分が望む役割に挑戦することができます。自分がなりたい自分になれる。
なりたい自分をイメージして、体で感じる。
なりたい自分について、わかりやすい形でわかることができる。
演劇の中だったらできる。
それが自分を知る上で役に立った気がします。演劇が自分自身を知る手段になったようです。
台本が決まって役が与えられた場合でも、役を自分に引きつけたり比べたりしながら演技を考えるので、同じ効果があると思います。
同年代の子がいるところに、一番最初に行けた場所である、と言うのも大きいです。そこからフリースクールに行けるようになりました。
体力がないということあって、どこにも行けなくて、昼に起きていた生活が一変しました。
そう言うつらい時期はどのくらい続くんですか?
状況によって様々だと思います。
親が受け入れてくれるかどうかは大きいですね。
私の場合は親が早めに理解してくれました。
学校に行きたくないと感じる気持ちを抱えていた時期もありました。
はじめは部屋でぼーっとしていたのが、本とテレビが楽しかったことを思い出してきて、好きだったことを思い出したのがきっかけで少しずつ外に出られるようになりました。
なんでもいいから外に出よう、甘いものでも食べて帰ろうとかが続いて、本屋に足を運んだり。
やっぱりもともと好きなもののところから行けるようになり、そのうち母が演劇サークルを見つけて来てくれて、というように自分の特性や好みを理解する過程がありました。
ほかの子のお話も伺いたいのですが、演劇サークルを経験して、この子変わったな、と思うことはありますか?
そうですね、やっぱり、声が大きくなったって言うのが一番わかりやすいですよね。それから、失敗を気にしなくなるところ。
なぜそうなったと思いますか?
失敗しても受け入れられたと言うか、失敗してもこれで大丈夫と言う経験があるからではないでしょうか。
演劇って、そう言うところですからね。
練習でいろいろ試しながら探っていくから、失敗して当たり前だとみんなが思っている。
そうですね。
伺ったお話をまとめると、もししんどくなって不登校になったときは、休む。
少し元気になってから、無理のない範囲でもともと好きな、楽しめることをしてみる。
その後、好きなことの延長線上にあるどこかに居場所ができると良い、ということですね。
そして、I さんはそれが演劇だった。
そうです。
ここまでのお話から、もしかして、私は、僕は、演劇楽しめるかもと興味を持ってくれた人にメッセージはありますか?
私は演劇を通じて人間に興味を持ち、心理学を学ぶきっかけになりました。
当初通っていた大学は体力が尽きましたが、今は通信制の大学で勉強を続けています。
自分にとって良かった変化として挙げられるのは、舞台度胸がついたことです。以前よりもおじけづかなくなり、舞台で失敗しても「こんなもんでいいんだ」と自分を受け入れることができる瞬間が増えました。
文化祭でちょっと歌ってみようと思えるようになったり。明るくなった、声が大きくなった、はっきりしゃべれるようになったことが、実感としてあります。
最後に、I さんにとって舞台本番での一番記憶に残るエピソードを教えてください。
失敗をアドリブで上手くカバーした経験が、私の中で一番強く残っています。最初にお話したような、本番で出て来れなくなった人の芝居をつなげた瞬間です。
一方で、成功した舞台はあまり覚えていないと言いますか、やっている最中は一種のトランス状態になっており、後から振り返ってもほとんど記憶に残っていません。逆に小さな失敗やセリフの言い間違え、アドリブでカバーしてもらったことなどは鮮明に覚えています。
これらの経験が積み重なり、失敗しても大丈夫という自信につながっているのかもしれません。
本番の成功や失敗のエピソードを、舞台が終わった後の打ち上げで話すのは本当に楽しいですね。
お話しいただき、ありがとうございました。
ありがとうございました。