代表である私は、「ドラクエと同じお金でドラクエより楽しいことをしたい」と言う理由で二十代の頃、演劇をしていました。演劇、面白そうだし、ヒマだしと、そんな感じで放課後るびを選んでいただいても、大丈夫です。
けれど、このサイトを見ている方の中には、ADD、自閉性障がい、不登校、コミュニケーションの問題などで困っていることがあって、その解決法を探されている本人もいらっしゃるのでは、と思っています。演劇は楽しいものであり、また、心の難しさへのアプローチに役立つものでもあります。放課後るびは、きっと、お役に立てるでしょう。
でも、本当でしょうか。
以前、「ちょっと学校に行きづらい子のための演劇サークル」に参加していて、今はそのサークルのスタッフとして活動していらっしゃる当事者の方が、体験を語ってくださいました。まとめると、以下の通りです。
コミュニケーションの問題で傷ついたとき、このように楽になっていくそうです。
1、休む。
2、あせらず、これくらいできるかな、と思ってから少しだけ好きなことをして楽しむ。
3、好きなことの延長線上にある居場所に行ってみる。
4、(そこでもし、演劇を選べば)明るく、声が大きくなり、失敗におじけづかなくなる。
おや?
演劇にできるのはほんの少しのことのようです。
どうも、自分に合った居場所の、選択肢のひとつでしか、放課後るびはないようです。
以下、座談会形式で、伺ったお話をまとめました。
1時間のお話をまとめましたので、かなりの分量があります。
どうして演劇を選んだの?
I 不登校経験者。「ちょっと学校に行きづらい子のための演劇サークル」現スタッフ
O 放課後るび 代表
O Iさんは、元不登校の当事者で、演劇サークルの活動を経て、少しずつ楽になったと伺っています。実体験として、演劇だけにこだわらず、どんな道筋をたどったのかをお聞きします。よろしくお願いいたします。
I よろしくお願いいたします。
O 今は、21歳の、大学生ですか?
I はい。通信制大学で、心理学を専攻しています。しばらくは4年制大学に通っていたのですが、体力的にしんどくなって転入しました。今、小6~高校まで行っていた演劇サークルのスタッフとして外へ出るほか、決まった外に出る機会はありません。そう言う意味では、今もここに助けられてる感じがあります。
O 演劇サークルに入るまでについて伺います。小6の時だそうですから、かなり前になりますけど。サークルに参加していた子どもは、ご自身も含めて、どういう理由で不登校になったのでしょうか?
I 私もそうだけど、人と違うとか、特性とかひっくるめて、コミュニケーションの問題が大きいです。いじめもそうだし。友人関係で孤立するとか。いろいろなんですが、なんでこの子が? って子もいました。私は、しゃべれないタチで行けなくなったわけじゃなくて、しゃべりすぎたのが友達の中で問題になって行けなくなったタイプの子です。
O 人間関係が問題になって、と言うことですが、なのに人前に立つ演劇サークルはハードルが高くありませんか?
I もともと人前で踊ったりするのが好きな子だったので。
O でも、こわいと思っている子はいました?
I それはいると思います。内向的な子はいっぱいいるし、私がたまたま違っただけで。ただ、子どもだとやってみればどうにかなるって言うのはあって。大人になるとできないんですけど。父とか母とかできないんですけど。やってみたらできるのかな? まあ、できなかった子を見たことがなくって。
O 来たらなんとかなる?
I やろう、って意志を持った子で、できなかった子を見たことがない。一番最初、何をしたらいいのかわからなくて黙ってることはあるけど、やろうと言う意志は感じられたし。
O 舞台って、黙って立っていても成立するから?
I 何かを言おうとしていれば。
O 黙る芝居って言うのがあって、何かを言おうとして、言えなくて、黙っているって言うのが恰好よかったりする。逆においしかったり。
I そう言う役なんだと言い張れば通る。あと、誰か助けてくれるし。本番で出て来れなくなっちゃった人がいて、「あれ? 来ないなー?」って芝居をつないだことがあって。まあ、なんとかなります。
O サークルはどうやって見つけたんですか?
I 母が見つけてきました。いくつか探してきてくれた、フリースクールとかの中のひとつでした。
O その中から、どうして演劇サークルを選んだんですか?
I その頃は親と散歩に出るくらいで、まだ、フリースクールとかは行こうと言うくらいでもなかったんです。
O 今、いろんな場所があるじゃないですか。放課後デイじゃなくても、演劇じゃなくても。どんなところがありますか?
I フリースクール。あと、フツーに習い事とかでも。楽しいことを続けられればいいと思います。そう言うところじゃなくても、最初、私がやってたのは公園を巡るとか。動物の遊具を撮って集めてました。ゲームとかでもいいと思います。楽しいことを見つければ。気持ちがふさぎ込んでいるときに、楽しいことを見つけるって難しいと思うんですけど。
もともと好きなことがはじめやすくて、そう言う楽しめることの延長線上で頑張っていくのがいいと思います。
O Iさんの場合は、好きなことの延長線上に演劇があったんですね。
I でも、いきなり絶対どこかに行かなきゃいけないって言うことじゃないです。しんどいし。だから、まず、休む。しんどいのはもう、仕方がないんです。嫌なことが何かしらあったわけで、それがしんどいのはもう、しんどいんです。さすがに食事はして欲しいですけど。しんどいってことは疲れてるってことだから、休んだらいいです。逃げてもいいし。別に、あせる必要はなくて。楽しいことをするのにも体力がいるじゃないですか。エネルギーが少なくなって、0になっている状態。だから、これくらいできるかなと思ってから、やったらいいんです。0になってもマイナスにはならないんで。
O 生きてるからね。
I 0にはならないですね。で、しばらく休んで。私は、本を読むのが好きだったんです。本を音読するのが好きだった。ハリーポッターとか。図書館に行っては、夜寝る前に音読していた。そんな子だったので、その延長線上にある演劇を、私は選んだんだと思います。小6の頃の話なんで、今思えば、ですけど。
O ほかの人もそうでしたか?
I 基本、ここに来た理由とか、聞かないです。あんまりあけすけに言えることではないし、それを聞くとお互いつらいと言うこともある。あんまり関係が深くなりすぎるのもいいことではないと言うか。LINEグループを作って、失敗したこともあるし。なにかつらいことがあったんだな、ってわかるときはありますけど。
演劇をすると、どうなるの?
O では、実際に演劇をはじめてからのことを伺います。サークルがはじまってからはいかがでしたか?
I 楽しい。はじめからすごく楽しかった。なにせ、今、スタッフとして関わっていても楽しい。いくつか、ポイントってあると思うんですよ。
O どんなですか?
I 想像する楽しさってあるじゃないですか。このキャラはこういう人でこういうことをして、と考えること自体が私には楽しいんです。
O それを楽しいと思う人が、演劇を選ぶ感じはするね。
I それを、自分でやるのがまた楽しい。体を動かす楽しさって単純にあるし、声を出す楽しさもあるし、なりきるのが楽しいって言うのは演劇する人なら誰でもあると思うんですけど。あと、演劇は自分が話すと、相手役は絶対に応えるじゃないですか。フツーのコミュニケーションだとそうはいかない。自分が働きかけても何も返してくれないとか、むしろ攻撃されるとかあるわけで。でも、演劇だと何かしらは返してくれるから、言葉のキャッチボールがとりやすいって言うのはあるかな。
原則、演劇って言うのはわかりやすいですね。私はこう言う役割、あなたはこう言う役割って言うのがあるので、現実のコミュニケーションが苦手でもやりやすいですよ。少なくとも私のような人間はメチャクチャやりやすい。
O じゃあ、それが実際の役に立ったことはありますか?
I 現実の練習を演劇でしていたみたいな、それが後で役に立ったってことはないですね。
でも、ひとつあるのは、気分が明るくなったって言うのは、絶対にある。不登校の子って気分が落ち込みがちなので。どこにも行けなくて、フツーじゃなくて、「学校に行かなきゃいけないのにいけない」ってところにおちいるのが、居場所ができて、気持ちが上がる、って言うのはあると思います。それは演劇じゃなくてもいいじゃないかってことですが。あとは、人前でしゃべるのが前より勇気がついてやりやすくなりました。単純に滑舌がよくなって口が大きく開くようになるから、言いたいことが伝わるようになるし。
O 私が演劇部の顧問をしていたとき、生徒の変化について同じ印象を持ちました。
I あと、自分の演じたいキャラを考えるじゃないですか。このサークルはお姫さまでもなんでも、したいと言えばできるシステムで、なりたい自分になれる。なりたい自分をイメージして、体で感じられる。なりたい自分について、わかりやすい形でわかることができる。演劇の中だったらできる。それが自分を知る上で役に立った気がします。
O 台本が決まっていて、与えられた役を演じる場合でも、役を自分に引きつけたり比べたりしながら演技を考えるので、同じ効果があると思います。
I 同年代の子がいるところに、一番最初に行けた場所である、と言うのも大きいです。そこからフリースクールに行けるようになったし。体力がないって言うのもあって、どこにも行けなくて、昼から起きてたのが変わりました。
O そう言うしんどい時期はどのくらい続くんですか?
I それは状況にもよると思うんです。親が受け入れてくれるかどうか、大きいです。ウチの場合は早めに理解してくれて。学校に行きたくないって言うのを引きずられたこともありますけど、私の特性なんかもわかってきて。最初は部屋でぼーっとしてたのが、本とテレビが楽しかったのは思い出してきて、もともと好きだったことをきっかけに少しずつ外に出られるようになって。なんでもいいから外に出よう、甘いものでも食べて帰ろうとかが続いて、本屋とか、やっぱりもともと好きなもののところに行けて。そのうち母がサークルを見つけて来てくれて。
O ほかの子の場合も伺いたいんですが、サークルを経験して、この子変わったな、と思ったことはありますか?
I やっぱり、声が大きくなったって言うのが一番わかりやすいですね。あと、失敗を気にしなくなったところ。
O なぜそうなったと思いますか?
I 失敗しても受け入れられたと言うか、失敗してもこれで大丈夫と言う経験ですかねえ。
O 芝居って、そう言うところですからねえ。練習でいろいろ試しながら探っていくから、失敗して当たり前だとみんな思ってる。
I そうですね。
O まとめますと、もし、しんどくなって不登校になったときは、休む。少し元気になってから、無理のない範囲でもともと好きな、楽しめることをしてみる。で、その延長線上にあるどこか居場所に行けるといい、と言うことでしょうか。Iさんはそれが演劇だった。
I そうです。
O ここまでのお話から、もしかして、私は、僕は、演劇楽しめるかもと興味を持ってくれた人にメッセージがありますか?
I 私は演劇を通じて人間に興味を持ったと言うか、今、心理学をやりはじめたきっかけにはなりました。通っていた大学はちょっと体力が尽きちゃって変わっちゃいましたが、今の通信の大学でも勉強を続けています。
私自身のことを言えば、よかったことは、舞台度胸がついたこと。おじけづかなくなった。舞台に上がって、失敗したとしても「こんなもんでいいんだ」と思える瞬間があると思います。それが度胸がつくってことかもしれないです。文化祭でちょっと歌ってみようと思えるようになったり。明るくなった、声が大きくなった、はっきりしゃべれるようになったことが、実感としてあります。
O 最後に、Iさんの、舞台本番での一番記憶に残るエピソードを教えてください。
I 失敗をアドリブで上手くカバーした経験が一番強く残ってますね。最初にお話しした、本番で出て来れなくなっちゃった人の芝居をつないだあれです。上手くいった舞台は逆にあまり覚えていないと言いますか……。やってる時は一種のトランス状態になってるのか、後から思い返そうとしてもほとんど忘れてます。逆に失敗は小さいことでもよく覚えてますね。セリフの言い間違えとか、とっさのカバーをしてもらった経験や、逆にした経験は鮮明に覚えてます。そう言う積み重ねが、失敗しても大丈夫という自信につながるのかもしれないですね。
O そう言う、本番の成功談や失敗談を、舞台をバラしたあとの打ち上げで話すの、楽しいんですよね。お話しいただき、ありがとうございました。
I ありがとうございました。